“きっかけづくり”では、“きっかけ”がつくれているか疑問になったので、3つのポイントにこだわっている。
学生時代、社会問題に対する意識の喚起や、予防啓発を目的としたイベントを実施していたとき、会場のみなさんに対して、僕はよくこんな言葉を発していました。
「僕達は、これらの問題に向き合う“きっかけ”をつくっています」
「まずは知ることから始めましょう」
練り上げられたコンテンツに、会場は沸き、観客は泣き、感情のままにアンケートを書き、興奮覚めやらぬままにイベントは終了。
・・・その瞬間の熱や想いを、信用していないわけでは決してありません。
でも、どうしても疑問だったのです。
この熱はいつまで続くのだろうか。
これで本当に人は変わるのだろうか。
これで本当に社会は変わるのだろうか。
「自分達のイベントの成果をもっと実感したい」
・・・そう思うようになってから、杉並区でイベントを実施する際には3つのことに気をつけています。
■1 イベントは定期開催する
ISPが行っている杉並区ワールドカフェ・サロン“100とも”は、世代・立場・国籍をこえて区民が集まり、自分達にとって身近なテーマについて対話をします。
その中で、お互いの違いを楽しみ受け入れる“聴き合いの姿勢”を身につけた人を増やすのが目的です。
なので、絶対に1回じゃ成果が分かりません。
イベントは楽しんでもらえたのか。聴き合いの姿勢は身に付いたのか。
最低でも、もう一回来てもらえないと。
だから、毎月開催しています。
そして、そうすることで、本当に変化が分かりました。
初めて参加したときには自分の話ばかりだった人が、久々に来たと思ったら模造紙にメモをとり、次には質問を投げかけて場を回そうとしている・・そういう人が、1人や2人じゃありません。
参加者もテーマも毎回変わる中で、その環境に適応している・・・定期開催することによって本当に、人が変わる瞬間を見ることができるんです。
自分達の活動の成果を“この目で見る”ということは、運営者にとってとても大切です。
余談ですが、定期開催のメリットは運営側にもあります。
「計画」→「実行」→「評価」→「改善」のサイクルを素早く回せるので、イベントの質の向上や運営チームのスキルアップを素早く行えます。
また、出来なかった悔しさや思い付いた改善点をすぐに活かせる機会があるということは、モチベーションの向上にもつながります。
年に1〜2回のイベントだと、どうしても忘れます。時節に合わせたイベントが、何十回も行われながら運営の質がそれほど高くない場合が多いのは、そのせいです。
■2 参加者にとことん向き合う
“100とも”に何度も来て頂くことは、“聴き合いの姿勢”を身につけていただくための一番の近道です。そのためには、「また“100とも”に参加したい」と思ってもらわなければなりません。
なので、ISPは“100とも”へ来て下さった参加者へのおもてなしにこだわっています。
そして、おもてなしにこだわるためにも、定員をあえて40人に絞っています。
キャンセル待ちが出ても、40人。参加希望者がいても、断る。
運営者としてはなんとももったいない判断ですが、参加者が多過ぎると、1人1人と向き合うことができません。
聴き合うことを目的としているイベントなのに、目的を掲げている運営者が参加者と聴き合っていないのは、本末転倒です。
また、毎回必ず新しい人が1/4は参加して下さる対話イベントなので、1人1人を見られないということは、危機管理においても不安が残ります。
一方で、ISPメンバーは6名。運営中は、写真や動画撮影など、様々な仕事を抱えています。それらの兼ね合いを考え、終了後、「誰でもいいわけではない。あなたに来てもらえて嬉しい」と心から参加者の方達にお伝えできるくらいに接せられる定員は、現時点では40人だと判断しました。
具体的にどのようなおもてなしをしているかは、また別の機会に記載することにして、1人1人に向き合う姿勢は、このような成果につながっています。
・“100とも”のリピート率は約7割。
・口コミで参加者が増えている。友人や恋人、家族まで呼んでくれる。
・「クレーム」がない。「アドバイス」をくれる。
・イベントのときに差し入れをしてくれる。
・終了後の懇親会には、毎回20名以上が参加。 など。
■3 イベントの成果を数値化する
“つながりづくり”“意見交換”“交流”を目的としたイベントは、その性質ゆえか、数値化することを諦めている節があります。
イベントにおける成果には、主観的・客観的の2種類の成果指標があります。
例えば、ISPがつくる“100とも”における主観的な成果指標は、
・ワールドカフェ時の会場の雰囲気の変化
・終了後に会場に残っている人数や雰囲気
・懇親会への参加人数
など、その場にいるからこそ感じられる成果です。
主観的成果指標はとても重要です。しかし、そのような成果が「その場限りのものではない」ことを外部に発信したり、何より自分達自身が納得するためにも、やはり客観的な成果指標は必要です。
そこでISPは、Facebookを活用しています。参加者のみなさんが“100とも”終了後にFacebookにアップして下さった「“100とも”があったからこそ生まれた場」に関する投稿を記録しているのです。
例えば、
・オフ会を開催した ・別の参加者が主催したイベントに行って来た
・一緒にイベントを企画した ・あの参加者の発言が役に立った・・・など。
2012年1月から開催した“100とも”ですが、“100とも”終了後に生まれた場は、現在で少なくとも247回を数えます。
“少なくとも”と敢えてつけたのは、Facebookの投稿を拾い切れていないであろうという予想と、そもそも投稿していないけど行われていること、また、口頭で「この間、◯◯さんと会ったのよ〜」という風に伝えて下さっている「第三者に説明するときに不確実なもの」も省いているからです。
まとめ
活動の成果を実感することは、団体の目的達成の度合いを測るという意味で、ものすごく重要です。
でも、もっと単純に、僕は、自分のやっていることに自信をもちたいんです。
いくらでも水増しできる来場者数や、
撮り方次第でいくらでもすごく見せられる写真などのビジュアルを超えた、
「変化の実感の共有」を杉並区のみなさんとするために、これからも探求していきます。